TAVR

TAVR

TAVR

経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVRまたはTAVI)

大動脈弁は、通常3枚からなる弁で形成され、心臓から動脈血が送り出される際に開放する出口となります。この3枚の弁の接合部が、何らかの原因で癒合して可動性が悪くなり、弁を十分に開くことができないことを大動脈弁狭窄症といいます。大動脈弁狭窄症が高度になると、全身に血流を送り出すことが困難となり、血圧低下や、失神・狭心症などの症状が出現するようになります。心臓には圧負荷がかかるため、心機能の低下・心不全を発症するようになり、時として不整脈による突然死の原因になる場合もあります。
人口の高齢化と診断技術の発達により、重度大動脈弁狭窄症は年々増加しており、欧米では75歳以上の8人に1人が大動脈弁狭窄症を有し、30人に1人 (3.4%) が重度大動脈弁狭窄症を有していると報告されています。日本 (2016年10月発表の2015年国勢調査結果: 75歳以上; 1612万人) でも同等と仮定すると高齢者の重度大動脈弁狭窄症は50万人超はいると考えられます。
これまで大動脈弁狭窄症の治療法は、外科的に大動脈弁を人工弁に取り換える大動脈弁置換術が行われてきました。しかし、外科的人工弁置換術の危険性が高い、もしくは不可能と判断されるいわゆるハイリスク症例の方も存在します。具体的には、非常に高齢である、肺や肝臓の病気の合併がある、心臓外科手術を受けたことがある、胸部への放射線治療を受けたことがある、予後が1年以上と考えられる悪性腫瘍の合併がある、脆弱である(寝たきりであるなど、高度に衰弱している場合はTAVR(TAVI)も不適となります)などが挙げられます。
このようなハイリスク症例の方にも根治的治療を可能としたのが経カテーテル的大動脈弁植え込み術 (TAVIまたはTAVR) です。TAVR(TAVI)は手術では必須である心停止・体外循環を行わずにカテーテルを用い生体弁による人工弁を植え込む治療です。日本では2013年10月から保険適用となり2017年1月までに累計で6000件以上施行されています。周術期死亡率は低く、ハイリスク患者を対象にした欧米の他施設ランダム化試験であるPARTNER trialの5年成績でも外科治療と同等の結果が得られています。また、最近では中等度リスクの症例に関してもTAVR(TAVI)は外科治療と同等か症例によっては良好な結果も報告されています。
一般的に、ハイリスク症例の方においてTAVR(TAVI)は手術と比較し身体的負担の軽減、手技時間の短縮の結果、早期の安静度拡大、リハビリへのスムーズな移行ができ、食事の再開も早いためより多くの症例で早期の独歩退院が得られています。
治療法は体への負担を考え足の血管からの治療(大腿動脈アプローチ)を第一選択としますが、足の血管径が細すぎたり、狭窄があったり、蛇行が強い場合などでは胸壁からの治療(心尖部アプローチ)の適応となります(図)。心臓を切開して人工弁を縫合する手術ではありませんので、人工心肺を使用しません。 TAVR(TAVI)に使用する人工弁は、金属の網(ステント)の中に生体弁(動物の組織から作った弁)を縫い付けたものです。現在、足の血管からの治療に使用される人工弁はSAPIEN3(バルーン拡張型)とEvolut R/PRO(自己拡張型)の2種類で、いずれの弁も、従来の人工弁(SAPIEN XT/CoreValve)に比べて明らかに性能が向上しています。大動脈弁および大動脈弁輪部の形態や大きさなどからどちらを使用するか決定します。
当院では、心臓血管外科、循環器内科、麻酔科、リハビリテーション科、放射線技師、臨床工学技士、看護師からなるハートチームで話し合い、外科治療またはTAVRのどちらで治療するか決定しています。2014年から2019年まで200症例にTAVR(TAVI)を施行し、良好な手術成績をあげています。

経大腿アプローチ

経心尖アプローチ