心臓植込み型デバイスとは
ペースメーカー植込み術は、洞不全症候群や徐脈性不整脈に対する安全な治療法として、手法が確立されています。また、致死性心室性不整脈による突然死の有効な予防法として、植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defribllator: ICD)も広く普及しています。
さらに心室内伝導遅延を伴う重症心不全患者に対する心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy: CRT)や、CRTにICD機能を備えた機種(Cardiac Resynchronization Therapy- Defribllator: CRT-D)の植込みも、増加しています。
これらの治療機器は、心臓植込み型デバイス(Cardiac Implantable Electronic Device: CIED)と総称されます。
デバイス感染治療とは
CIEDの発展と普及に伴い、術後に発症する合併症の頻度も増加傾向にあります。Vogtらは、2006年のHeart Rhythm Society: HRSの学会発表で、CIED治療後の感染率が、1996年の2.58%から、2003年には5.31%に増加していることを発表しています。また、この報告によると、姑息的治療(デバイスのみ除去し、抗生剤で治療)後の感染症再発率は50~100%、デバイスとリードの完全除去後の感染症再発率は0~4.2%とされています。さらに、CIED感染患者の65%が、抗生剤のみで治療されているか、全く治療されていないとも報告されています。
CIED由来の感染症に対し、未治療の状態が続く場合、あるいは不適切な治療であった場合、重篤な感染性心内膜炎を発症することがあります。
また、適切な治療のために、デバイス本体のみでなくリードの抜去が必要となる場合もあります。しかし、長期間体内に留置されたリードは、癒着のために抜去が困難です。また、過度のリード牽引は、心臓や血管の損傷など、致命的な合併症を引き起こす危険があります。抜去が困難な場合、開胸して人工心肺補助下で抜去することになりますが、患者の負担は大きくなります。
エキシマレーザーによるリード抜去術
人工心肺の使用は、患者の免疫能に少なからず影響を与えます。さらに、縦隔炎などの重篤な合併症を認める場合もあります。このため、極力開胸を行わず、低侵襲にリード抜去を行う方法が模索されました。
その結果開発されたのが、エキシマレーザーを使用したリード抜去術です。エキシマレーザーは、稀ガスとハロゲンの混合ガス中の励起された2量体が解離する際に生じる紫外線領域のレーザー光です。生体組織を構成する分子結合を非熱的に直接切断するため、周辺組織に熱損傷を加えることなく、病変部を破壊、蒸散させます。
Spectranetics社の開発したエキシマレーザー発生装置(図1)は、塩化キセノンガスを活性媒体に、波長308nmのレーザーを発生させます。専用のマルチファイバーカテーテル(図2)を鎖骨下静脈から挿入し、血管内の癒着組織へ接触させ、これを破壊・蒸散することでリードの癒着を剥離します(図3)。
こうしたリード抜去術は1997年の米国FDA認可以来、欧米で急速に普及しました。本邦でも2008年に厚生労働省認可を受け、2010年に保険適応となっています。
当院でのエキシマレーザーによるリード抜去施行
当院では、2012年からエキシマレーザーによるリード抜去を導入しています。侵襲度が低く、高い成功率と安全性が報告されている治療法ですが、わずかながら心血管損傷や血気胸といった重篤な合併症も報告されています。よって、適応に関しては十分な検討と注意が必要です。
エキシマレーザーによるリード抜去術は、所定の基準を満たした施設のみ施行可能です。当院では、メカニカルシースやエボリューションなどの新しいデバイスを用い、積極的にリード抜去を行っています。
手術の際は、循環器内科医と心臓外科医の連携はもちろん、麻酔科医、看護師、臨床工学技士、放射線技師といった手術に関わるすべての部門が協力し、チームとして取り組んでいます。2012年から2019年までに30例のエキシマレーザーを施行し、全例軽快退院となりました。
当院での開胸によるリード抜去施行
合併症の可能性があるため、全症例にエキシマレーザーを適応できるわけではありません。また、20年以上の長期間留置リードや、リード周囲の石灰化による高度癒着が疑われる症例などに対しては、従来の人工心肺下の開胸によるリード抜去を行う必要があります。
当院は2012年から2019年までに、開胸によるリード抜去を10例施行しました。うち1例に胸骨骨髄炎を合併しましたが、全例軽快退院となっています。
CIED感染に対する加療は、術前に十分な治療戦略が必要となります。CIED感染患者さんがいらっしゃれば、御紹介していただければ幸いです。精査の上、適切な加療を選択させていただきたいと存じます。まずは、循環器内科外来(内藤、中村、佐々木)へ御気軽に御相談ください。